日誌

喜ぶ・デレ 校長日誌 錦町の空から NO1428 (2020.8.11)

校長日誌 錦町の空から NO1428 (2020.8.11)

 異文化理解③
(前号より)
 早速翌日から職員室にはえ取り紙が複数下げられました。
 すると、みるみるうちにはえ取り紙に蠅がべたべたと貼り付きました。
 見事なくらいの数の蠅です。私たち教員は皆「これで五月蠅い(うるさい)蠅から開放される」と胸をなで下ろしました。
 しかし、思いも寄らない言葉が私たちに寄せられました。その言葉を寄せたのは、当時のスペイン語の講師の一人です。
「なんてひどいことをするの?やめて。」
 真顔で私たちに抗議してきたのです。私たちは「???」でした。「なぜ?」「害虫であり、私たちの仕事の邪魔をする蠅を取り除いて何が悪いの?」と思ったのです。
 彼女は必死に私たちに訴えます。
「蠅だって、命があるの。こんな残酷なことは止めてください。」
 彼女の同僚のスペイン語講師が私たちに説明してくれました。(この講師は、日本語がペラペラでした。)
「彼女は、敬虔なクリスチャンなの。彼女にしてみると、あのはえ取り紙は残酷なの。」
 なるほど、と私たちは彼女の言い分を理解しました。でも、にっくき蠅を自分たちの手で排除したわけではないので、納得できていませんでした。
 同僚の講師の先生がさらに言葉を継ぎ足しました。
「彼女は、あなたたち、日本人学校の先生が大好きなの。良い先生ばかりだって、いつも言っているわ。その先生たちがこんな残酷なことをするのは耐えられない、って言っているわ。」 
 この言葉で私たちは納得せざるを得なくなりました。
 彼女は、子供たちが大好きで、子供たちからみんなから好かれている良い先生でした。そんな先生が、私たち日本人教師も認めてくれていて、認めているからこそ、私たちの行動を許せない、ということなのです。
 私たちはやむを得ず、はえ取り紙を取り外すこととしました。
 害虫といえど生物。命を大切にしなくてはいけない。・・・日本との違いを改めて痛感し、「郷に入っては郷に従う」ことが大切であると感じた出来事でした。